2022/01/09 18:44
「池ノ上 辰山展 重ねる器 椿碗」に行った記念に、
和歌山県の伝統工芸品「根来塗」について書いてみたいと思います。
1、根来塗とは
現在の和歌山県岩出市根来において制作される漆器のことで、
根来寺において鎌倉期から室町期まで僧侶の日常使いの漆器
として作られたのが始まりである。
「根来塗」は主に朱塗りの、当時貴重な天然の辰砂(しんしゃ)を使った漆器をおもに指し、黒色の漆器を「黒根来」と言う。
1585年の豊臣秀吉の紀州根来攻めにより一度、当時の塗りの技術は消えてしまった。
この時逃げ延びた僧侶が伝えた技術が、日本三大漆器の一つとして有名な紀州漆器の起源であるとも言われている。
往時の根来塗を再興しようとした美術史家の河田貞氏と根来塗塗師の池ノ上辰山氏、
その尽力によって現代に復活したのである。
2007年に和歌山県の指定を受けて「根来寺根来塗」として復興登録された。
以下「根来塗」は池ノ上辰山氏の系譜の宗家根来寺根来塗を指すものとする。
2、根来寺根来塗は「用の美」
・根来塗はとても丈夫
根来塗には全26工程、そのうち19工程は下地作業であり、下地こそが根来塗で最も重要視されているとも言える。
麻布を貼ることでさらに強度を上げ、より頑強になっている。
木で出来ているので軽く、落下時の衝撃も緩和される。
欠けや割れに強く、また熱湯を直に注ぐことも可能である。
何故か根来塗のカップを購入した人は白湯(さゆ)に目覚めることが多いらしい(私もその一人でやたら美味しく感じます)。
・根来寺根来塗は使えば使うほど味が出る
最近の普通の漆器を見慣れていると根来塗を見るとびっくりする。
全然ツルツルでなく、ツヤもない、むしろ荒い手触りである。
漆を刷毛で厚く塗っており、その刷毛跡が荒い手触りを生み出している。
その刷毛跡も味の一つで職人によって塗り方もかなり違っている。
これを使い込むことで摩耗が進み、ツヤが出て手触りもツルツルとなってくる。朱色がすり減り、下地の黒が
「かすれ」として現われ、それも景色として見所の一つとなる。
中世の僧侶が見出した根来塗の美の一つである。
展示を見学した際に、神戸の天ぷら料亭「メーザエスタシオン」で12年間使われていた椿椀のかすれを見ることができたが、
椿椀は保管時に重ね置きをするため独特のかすれが出来ていて、それが独特の景色を生み出していた。
このように根来塗は長く使うことで味が出る、根来塗から「その人の根来塗」となっていく。
その堅牢製、使えば使うほど味が出ること、とことん普段使いが想定されたデザイン。
絵付けなどの装飾による視覚的な美しさとはまた一味違う、これこそまさに「用の美」といえるのではないだろうか。
※池ノ上辰山展に行ってきた感想
根来塗の展示に行くのは二回目ですが、
今回も色々と職人さんからお話を聞くことが出来ました(ちょっと話過ぎてすんません)。
気難しいイメージのある職人さんですが、
池ノ上辰山先生をはじめ、皆さん気さくで話しやすい方たちでした、
そして根来塗のことを皆大好きなのだなと感じました。
私自身、シンプルな漆器だと思っていたので、話を聞いていく過程で知ったその技術の高さや工夫、
合理性を追求したデザイン、これが「用の美」というものなのだろうと感動しました。
辰山先生しか作れない器形の話、器の縁などの段差が一つ入るだけで塗りの難易度が格段に上がること、
「その段差を最近克服した」と嬉しそうにおっしゃられている職人さんの話。
どの話も面白く、こういう職人さんのいる根来塗の先行きに明るさを感じさせてくれます。
しかし、塗りに使われている人毛の刷毛を作る会社がもう一社しかないことなどもうかがいました、
あまり楽観できる状況でもないようです。
根来塗だけでなく、伝統工芸の世界には課題が山積していますが、きっと解決方法はあると信じています。
根来塗も新たに歴史を重ね、その器のように味が出てくる未来を願いつつ、
私も自分の「黒根来」のカップを育てていきたいです。
駄文ですが、読んでくれてありがとうございます。
少しでも根来塗の魅力が伝われば幸いです。